盗まれた!どっちが哀れなの?≪九月七日≫ -壱-新華旅社での最後の夜を迎えた。 移動の疲れのせいか、そのままぐっすりと眠ってしまったようだ。 胃の調子が悪い。 夜の冷え込みにやられたのかなー! 荷物をまとめて階下のホール兼食堂で朝食を取っていると、バ ンコックで知り合った日本人”K君”が飛び込んで来た。 K君「やあ!」 ちょっと顔が笑っている。 俺 「やあ!おはよう!なんだい朝早くから・・・・・。」 K君「もう発つのかい?」 俺 「ああ、バンコックも長居したから、今日は飛行場で過ご そうと思って・・・。なんか用事なの・・・・?」 K君「ちょっと、やばいことが起こったんだ。」 俺 「ヤバイ?・・・・そりゃなんなの?」 K君「W君がやられてさ。」 俺 「やられたって?」 K君「女にパスポートやら、TC(トラベラーズ・チェック)なん か盗まれちゃってさ。」 俺 「ええ?何処で!」 K君「そこの、ステーションホテルでなんだ。」 こういう事らしい。 W君がベッドへ入る前に女を買ったらしい。 そこまでは良いのだが、ちょうどこのホテルの女が皆売り切れていて いなかったらしい。 そこで、ホテルのマスターに頼んで、ホテルに泊まっている女を手配 したようだ。 W君はその女と良い夜を過ごした後、疲れたのか?すぐ眠ってしま い、朝目を覚ましたら女の持ち物は部屋に置いたまま、パスポートやTCを 入れた命の次に大事な袋が無くなっている事に気づき、青くなって呆然と した姿でベッドに座り込んでいる所へK君が訪ねて行ったという訳だ。 K君に言わせると、本当に魂が抜けていたようだったと言う。 俺 「パスポートとTCはすぐ届ければ大丈夫だけど、現金は戻 ってこないだろうな。」 K君「現金は、200US$ぐらいやられたって言ってた。」 俺 「それで・・・どうしてるの?今!」 * W君の部屋は、40Cでエレベーターのすぐ横の部屋だった。 ホテルの関係者数人と話をしているホテルのマスターが部屋にいた。 マスター「お手上げね。」 俺 「お手上げってことないだろ!警察には言ったの か?」 マスター「九時にはポリスが到着するから、それまで待て。」 俺 「何で・・・泊り客なんかと・・・。」 W君はうつむいたまま動かない。 9時、ポリスがくる。 マスター「彼をつれて警察に行って状況を説明するから。」 俺 「最後まで付き合ってやりたいけど、飛行機の切符取 ってるから・・・・な。」 K君 「取り合えず、緊急避難だから、皆で出せるだけカンパ しようじゃないか。どう?」 俺 「TCが帰って来るまで金要るもんな!」 W君 「悪いよ!」 俺 「そりゃ・・・ワルイさ!」 W君 「・・・・・。」 K君 「一人US20$でどう?」 俺 「良いんじゃない。」 全部で80$になる。 パスポートやTCが戻ってくるまでの生活費と思えば十分な額だ。 K君 「パスポートは10日くらいで再発行できるらしい。もち ろん新しい奴。TCは一週間くらいかかるみたい。」 K君 「どうもありがとう!感謝します。」 俺 「いや!お互い様だよ。」 W君 「助かるよ。」 俺 「それじゃあ、俺は急ぐから。後頼むよ!」 W君 「これから旅長いのに・・・ゴメン!」 俺 「気にするな。」 塞ぎ込んでいる若狭を励ますが、彼のしたたかさを知ったのは トルコの宿で偶然にも遭ってから。 あの貴重なカンパのお金で、ドンちゃん騒ぎをしたって言うのだか ら、あきれ返ってしまう。 今はそんなこと知る由もない。 哀れなのは、カンパをした俺を含めて四人の仲間達の方なのだ。 あ~~あ、貴重な20$が・・・・・。 9時50分頃、事情聴取のため若狭はポリスへ向かった。 彼に書置きを残してK君と部屋を出る。 すぐ前のバス停でK君と握手をして、29番のバスに乗り込んだ。 バスは市街地を出るまでは、ノロノロと走った。 飛行場まで22.3Kmの道のりを、一時間半かけてバスは走る。 天候は良く、青い空が広がっているにも関わらず、昨夜のスコー ルのせいで道路の至る所で水溜りができているのが分る。 バンコックでは夜になるとスコールがある。 水溜りの中をバスが走りぬける度に、きれいな虹が出来る。 乗客たちは、虹が発生する度に歓声を上げる。 水溜りのひどい所は、バスの停留場が船着場のような状態になっ ていて、バスに乗り込む人たちはズボンをたくし上げて、裸足で乗り込ん でくる。 料金は、2バーツ25サタン(33円75銭)。 バスは学生が多く乗り込んでいて満員寿司詰め状態だ。 俺は一番後ろの窓際に座っているため落ち着かない。 黒いスカートに白いシャツ姿の女子学生が魅力的に見える。 右手に飛行場が見えてきた。 満員の女子学生に触れながら、やっとの思いでバスを降りる と、道の反対側に飛行場が広がっている。 道を渡る。 一度来た事があるところにくると、なぜかホッとする。 2皆にあるロビーに上がり、ロイヤル・ネパール・エアーラインのカウ ンターで、出国税40バーツ(600円)を支払い、手続きを済ませると荷物を ベルトコンベヤーに載せた。 ここでいつも頭にくることが一つある。 受付の荷物の扱い方だ。 荷物を逆さまに持ったり、放ったり、蹴飛ばしたり、、それも本人が いる目の前でやるから、余計始末が悪い。 受付を睨みつけながら(当人は怪訝そうな顔をしている)四階に上が り、レストランに入った。 ここで同じネパールに行くという日本人に会う。 定刻では、13:00発なのに、放送によると二時間半ほど遅れるという ではないか。 俺「あ~~~あ、また遅れるんかいなー!」 二階のロビーに戻ると、インドネシアを回ってきて、これから日本に 帰るという日本の学生に会う。 彼「日本の方ですか?」 俺「エエ!」 彼「これからどちらへ?」 俺「ネパールです。」 彼「えっ!ネパールですか。」 俺「お宅は?」 彼「インドネシアからの帰りです。」 俺「どうでしたか?」 彼「最高でした。」 俺「どのくらい、行ってたんですか?」 彼「二ヶ月位かな。二十五万円持ってきたんですけど、安いも んですよ。」 彼は笑った。 もうすぐ、ネパールへ飛立つ。 ジャンル別一覧
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